女性ホルモン補充療法

 女性ホルモンの急速な低下に起因する身体状況の様々な変化に対し、最も有効な治療手段として女性ホルモン補充療法が挙げられます。しかしながら、この治療を何歳まで継続するか、いかにして自然現象である老化を受け入れるかなど、今後に残された問題点も少なくありません。わが国では、なぜか、最近になり普及の傾向にありますが、米国では下火になりつつあります。 副作用も少なくありませんので、長期の施行はお勧めできません。(最後の補遺は必ずお読みください)  2002年7月10日改定

1 女性ホルモンの種類とその機能

1)エストロゲン: 生理的にはエストロン、エストラジオール、エストリオールの三者が存在しますが、このうちエストラジオールが最も作用が強い。卵巣、卵管の機能を促進します。また、子宮粘膜を肥大させ、子宮頚腺を刺激し粘液(頚部粘液)を分泌させます。膣では、膣上皮を肥厚させ、また、膣分泌液を酸性に維持します。乳腺の発育増殖を促進します。この他、骨形成の促進作用、総コレステロールおよびLDL低下作用、HDL増加作用、中性脂肪増加作用などがあります。

女性ホルモン補充療法には通常、抱合型エストロゲン(エストロンなどの混合物)、エストラジオールやエストリオールが使用されます。

2)プロゲスチン(黄体ホルモン): エストロゲンにより増殖した子宮粘膜をさらに増殖浮腫状(分泌型)にします。エストロゲンとともに乳腺の発育増殖を促進させます。コレステロールに対しては総コレステロールおよびLDLコレステロールを若干増加、HDLコレステロールを若干低下させます。

女性ホルモン補充療法では酢酸メドロキシプロゲステロンが使用されることが多い。

2 女性ホルモン補充療法の効果

更年期障害のうち、ほてり・のぼせ(hot flush)、発汗、頻脈、泌尿生殖器委縮には効果が高い。不眠やうつ症状に対しては30−50%程度の有効性を示します。長期投与では、骨粗鬆症の予防・治療効果があります*。

3 女性ホルモン補充療法の実際

女性ホルモン補充療法の内容は、子宮がある場合と手術で子宮を摘出してある場合で、異なります。また、治療期間については、更年期障害の治療目的では、閉経後1〜5年程度行えば必要でなくなることが多いようです。一方、骨粗鬆症の予防・治療には長期投与が必要です。

1)子宮がある場合:エストラジオール作用の強い薬物を長期投与すると子宮体癌(子宮内膜癌)の頻度が増加するため、これを予防する目的でプロゲスチンを併用する必要があります。(この場合子宮体癌の発生は女性ホルモン補充療法を行わない場合よりむしろ若干低下するといわれている)  なお、米国での研究により、このエストロゲン+プロゲスチン補充療法を長期的に行うと、乳癌、脳梗塞、静脈血栓、心筋梗塞が増加することが証明されています***

A 規則的に月経様の出血(消退出血)をもたらす方法


1**************21**28

28日のうちはじめの21日間エストロゲン を服用、このうち後半の10日前後は プロゲスチン も服用。最後の1週間は休薬(白)。休薬期間中に出血(消退出血:突然のホルモン減少による出血、排卵は伴わない)する。


1******************28

28日間エストロゲンを服用、後半の10〜14日間は プロゲスチンも服用。次の周期のはじめに出血(消退出血)する。

 

B なるべく出血をきたさない方法

エストロゲン プロゲスチン を常に併用する。

 

2)子宮がない場合:子宮体癌発生の可能性が無いためエストラジオール単独投与が行われます。ただし、子宮体癌で子宮を摘出した場合には、通常、女性ホルモン補充療法は行われません。 また、長期にエストロゲンを補充すると、乳癌が増加すると考えられています。


エスロトゲンを単独で服用する。

4女性ホルモン補充療法の副作用

1)子宮体癌(子宮内膜癌):上記のように、エストラジオール作用の強い薬物の長期投与で、子宮体癌(子宮内膜癌)の頻度が増加しますが、プロゲスチンの併用で防止が可能です。(この併用療法はむしろ子宮体癌(子宮内膜癌)の発生を予防する働きがあります)

2)静脈血栓症:深部静脈血栓症が増加します**。(ピルでは以前から報告されていました。頻度はきわめて低い疾患です。)

3)乳癌:エストロゲン単独あるいはプロゲスチン併用のいずれの場合でも、短期間(5年程度)では心配ありませんが、長期間(5−10年以上)女性ホルモン補充療法を施行すると乳癌の発生頻度が若干(20−40%)増加します ****

4)動脈硬化症:エストロゲン+プロゲスチン併用療法を長期的に行うと、脳梗塞、心筋梗塞が増加します ***

5)性器出血:エストロゲンとプロゲスチンの持続併用療法(上記の1)−B)でも、最初の数カ月は高頻度に性器出血が認められます。しかし、1年以上経過すると子宮粘膜が委縮し、出血はほとんど認められなくなります。

6)乳房緊満、帯下、むくみ

7)肝障害、胆石症

8)頭痛、悪心、嘔吐



2001年7月、米国心臓病学会は、女性ホルモン補充療法を狭心症や心筋梗塞の二次予防(一度発症した人の再発予防)目的で施行することに否定的な見解を出しました。厳密な研究により、虚血性心疾患に対する女性ホルモン補充療法の二次予防効果が否定されたためです。このページでも虚血性心疾患を含め動脈硬化予防効果に関する文章を削除しました(*)。また、静脈血栓症が増加することが確実視されるようになりましたので、この副作用に関する項目の文章を明確なものに変更し、副作用の2)としました(**)。したがって、乳癌に関する副作用を3)と変更しました。

 

2002年7月9日、米国国立衛生研究所は、エストロゲン +プロゲスチン併用療法を長期的に行うと、乳癌だけでなく、脳梗塞や心筋梗塞が増加することを発表しました(***)。このため、副作用の4)として動脈硬化症を挙げました。したがって、以降の副作用は番号が変わりました。また、この併用療法で乳癌が増加することが確実であることも明らかにしました(****)。

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