インスリン非依存糖尿病治療の問題点
98年3月

  インスリン非依存糖尿病患者さんの死亡率は非糖尿病者に比し約2倍であり、特に、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患による死亡率は2-4倍の高率であることが知られています。糖尿病は慢性的な高血糖で特徴づけられる疾患ですが、糖尿病患者さんで認められる高い心血管系疾患による死亡率は高血糖のためなのでしょうか? 再三取り上げられてきたこの問題につき、米国糖尿病学会の機関誌の一つ Diabetes Care 98年3月号に、米国国立糖尿病・消化器疾患・腎疾患研究所の Harrisら は以下のような Editorial を載せています。



高血糖は糖尿病に認められる網膜、腎臓、神経などの細小血管障害の原因と考えられており、実際血糖のコントロールによりこれらの合併症の発症を抑制することができる。一方、高血糖と心血管系疾患や死亡率との関係は明確ではない。非糖尿病者では、血糖値が上位から2.5%以上の対象者で若干死亡率が上昇するに過ぎない。また、この場合上昇するのは心血管系疾患による死亡率のみならず悪性腫瘍による死亡率も上昇する。従って、非糖尿病者においても、血糖値と心血管系疾患との間に特異的な関係があるとは結論しがたい。糖尿病者における高い死亡率は、糖尿病患者に認められることが多い高トリグリセライド血症、低HDL血症、高血圧、血液凝固能の亢進などによる動脈硬化および血栓の促進や、代謝異常による心筋の機能障害や心筋梗塞後の傷害の修復不全など種々の因子の総合としてもたらされているものである可能性が高い。従って、糖尿病患者に認められる脂質代謝異常や高血圧に対してはより強力な治療が必要と考えられる。また、アスピリンなどの血栓予防薬などの投与も意味があると考えられる。血糖のコントロール自体が心血管系疾患のリスクをどの程度低下させるか、また、血糖をどこまで低下させれば心血管疾患のリスクが低下するのかなどの問題に関しては、今後の研究が必要である。

なお、日本より心筋梗塞による死亡率が高い米国では、1997年、糖尿病患者に対して特に差し支えがなければアスピリンを投与するようにとの勧告が米国糖尿病学会より出されました。また、同学会の糖尿病診断基準も1997年に改定され、空腹時血糖126 mg/dl以上で糖尿病を診断するようになりました。現在我が国では空腹時血糖は140 mg/dl 以上で糖尿病を診断するという基準が用いられています。
 

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