赤ワインは無効 !   1999年6月

  フランスでは、最近の動物性脂肪の摂取量は多いものの、心筋梗塞など虚血性心疾患(心臓に血液を送る冠状動脈の動脈硬化による疾患)による死亡率がイギリスの約1/4と低いことが知られており、フランスの逆説(French paradox)として知られています。フランスではワインをたくさん飲むのでこの事が関係しているのではないかとも考えられていました。また、赤ワインには物質の酸化を防ぐポリフェノールという化学物質が多く含まれているので、赤ワインがLDLコレステロールの酸化を防ぎ動脈硬化を予防しているのではないかと噂されたこともありました。わが国のあるワインメーカーがこれらの噂を基に(赤)ワインブームを作ったことは有名です。近ごろではわが国のワインブームも一段落といったところでしょうか。

  このたび、イギリスの権威ある医学専門誌British Medical Jouurnalに、French paradoxの原因はフランスでは比較的最近までイギリスに比べ動物性脂肪の摂取が少なかっただけのことで、ワインは無関係との論文が掲載されました。



  ロンドンの研究者によると、フランスでは1970年までは動物性脂肪の摂取率や血液中のコレステロールはイギリスに比べ10%程度少なかったが、1970年以降イギリス並みになったとのことです。動物性脂肪の摂取から実際に動脈硬化になり虚血性心疾患で死亡するには20-30年の年月が必要であると考えられるとのことです。French paradoxは、また、フランスで女性の喫煙率が9%とイギリスの30%に比し低いことも原因しているだろうと考えています。

  アルコールとの関係では、アメリカで行われた世界最大規模の研究など計5個の大規模な研究結果から、少量のアルコールは動脈硬化予防に有効であるが、大量にアルコールを摂取すると血圧が上昇するため、動脈硬化予防効果がなくなってしまうと結論づけています。いずれにせよ、イギリスとフランスのアルコール消費量の差ではFrench paradoxは説明できないとのことです。

  フランスだけでなくイタリアなどワイン消費の多い国では虚血性心疾患による死亡率が低いことが知られており、アルコール一般ではなくワインに何か特別な効果があるのではないかとも考えられていましたが、数々の研究から、この可能性は否定されており、種類によらず少量のアルコール(エタノール)にはHDLコレステロールを増やすなどによる動脈硬化予防作用があることが結論付けられています。赤ワインが特別の効果を有するのではないかという可能性も大規模な研究から否定されています。

  著者らは、フランスはじめ各国の60年代および80年代後半の動物性脂肪の摂取量を調査し、現在の虚血性心疾患による死亡率が80年代後半ではなく、60年代の動物性脂肪摂取量と相関していることを示しています。同様に、最近および過去(70年)の血液中のコレステロールレベルを調査し、現在の死亡率が、過去のコレステロールレベルと相関していることを示しています。

  これらの調査から、著者は動物性脂肪の摂取増加と虚血精神疾患による脂肪との間には約25年のタイムラグ(時差)があると結論づけています。しかしながら、一方では、薬物などによりコレステロールを低下させると2年程度で死亡率の低下が認められるのも事実です。このように、悪影響の出現とその改善との間には時間的に大きな差がありますが、その原因はよく分かっていません。


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