高血圧の治療目標 (1998年7月)

   高血圧の患者さんが薬を服用して血圧を下げた場合、脳卒中や心筋梗塞が減少し、死亡率が低下することはよく知られています。今回、どの程度まで血圧を下げたらよいかについて、欧米、中南米およびアジアの26カ国、約19000人の患者さん(50 - 80 歳、平均61.5歳)を平均4年間追跡調査した結果が報告されました(英国の医学専門誌The Lancet 98年6月13日号)。


   治療前の血圧は平均170/105 mmHgでした。これらの患者さんに長時間作用型カルシウム拮抗薬という降圧薬を中心とした薬物療法を行った結果、収縮期血圧は135-140 mmHg、拡張期血圧は80-85 mmHgに下げた場合、血圧がこれらの値以上の場合に比べ、心筋梗塞や脳卒中の発生が低下することが分かりました。しかし、当初この研究が目的とした"さらに血圧を下げた場合どの程度のメリット、あるいはデメリットが得られるか"については、これ以上血圧を低下させることができなかったため、結論が得られませんでした。また、少量のアスピリンを服用すると、心筋梗塞の発症を2/3に減らすことができることも分かりました。当初、アスピリン投与により脳出血が増えるのではないかと心配されましたが、その危険性は認められませんでした。これらの結果を踏まえて、今年9月WHOの会議が開かれ、降圧療法の指針が改訂される予定です。


   わが国では欧米に比し、心筋梗塞より脳卒中の頻度が高く、状況が若干異なる可能性は否定できません。ただ、わが国独自の大規模な研究が行われていない現状では、この研究結果を否定する根拠がないため、今回の135-140/80-85 mmHgを目標に降圧をはかるべきと考えられます。なお、この研究には、アジアからは中国、韓国、マレーシア、台湾などが参加していますが、わが国は参加していません。わが国の医学界や医師の猛烈な反省が求められます。
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