インスリン非依存型糖尿病の新薬−thiazolidinedione系薬物

1997年1月

 米国糖尿病学会(ADA)が出版する糖尿病専門誌"Diabetes"の96年12月号(Diabetes 45:1661-1669,1996)から、インスリン非依存型糖尿病の新薬であるthiazolidinedione系薬物に関するAR Saltiel と JM Olefskyによる総説をご紹介します。


インスリン抵抗性およびU型糖尿病の治療におけるthiazolidinedione系薬物

 インスリン抵抗性とはインスリンが有する血糖低下作用に対して組織・細胞が抵抗性を示すことを言い、血液中に正常量のインスリンが存在するのにもかかわらず血糖が上昇してしまう状態で特徴づけられます。このインスリン抵抗性はU型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)のほとんど全ての症例に認められる共通した特徴であると考えられています。特に肥満をともなうインスリン非依存型糖尿病の症例ではこの傾向が強く、血液中のインスリン濃度が正常よりもむしろ増加しているにもかかわらず血糖が高値を示すこともあります。このインスリン抵抗性は筋肉などの末梢組織でブドウ糖の取り込みが低下することと肝臓からのブドウ糖の放出が増加することの両者によってもたらされ、U型糖尿病の発症に中心的な役割を果たしていると考えられています。したがって、これらの組織でのインスリン作用を増強させてやることがU型糖尿病の治療につながる可能性が考えられています。Thiazolidinedione系薬物はインスリンの作用を増強させる目的で開発された新しい経口薬です。この薬物はインスリンのブドウ糖取り込み促進作用および肝臓からのブドウ糖放出抑制作用を増強することでインスリン抵抗性を軽減させます。糖尿病症例やインスリン抵抗性を有するその他の症例での臨床研究の結果、この薬物が安全でかつ有効な新しい治療薬であることが示されています。この薬物の詳細な作用機構は不明ですが、この薬物によりインスリン作用の増強につながるような様々な遺伝子の発現(遺伝子からメッセンジャーRNAが合成されさらに蛋白質が合成されること)が増加します。この遺伝子発現の変化はthiazolidinedione系薬物とPPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)と呼ばれる細胞核にある受容体との相互作用の結果もたらされると考えられています。この薬物の作用機構をさらに明らかにしていくことがインスリン抵抗性の発症メカニズムの解明につながる可能性も指摘されています。


なお、わが国では最初のthiazolidinedione系薬物は本年3月から処方が可能になる予定です。また、これらの新薬を含めた糖尿病の薬物療法に関するページを作成中です。公開までしばらくお待ちください。

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