インスリン依存型糖尿病の原因:遺伝か?環境か?  1997年2月

 インスリン依存型糖尿病の発症率は国別の差が大きく、わが国などの発症率が低い国と北欧などの発症率が高い国の間には約60倍の差があります。この地域別の差の原因が遺伝的因子によるものか、あるいは環境因子によるものかは不明ですが、この点に関しイタリアの Muntoni らのグループは英国の医学専門誌 Lancet 1月18日号(www.thelancet.com)で興味ある研究結果を報告しています。


 イタリア領サルジニア島ではインスリン依存型糖尿病の発症率(人口100000人あたり1年間に30.2人)はイタリア本土ローマ周辺のラツィチオ地域に比し4−5倍の高率であることが知られている。また、サルジニア人はイタリア人を含む他のヨーロッパ人とは遺伝的に異なると考えられている。そこで、研究者はサルジニア島からイタリア本土ラツィチオ地域に移住した両親のもとにラツィチオ地区で生まれた子供のインスリン依存型糖尿病の発症率を調査した。その結果、両親ともサルジニア人である場合には、その子供のインスリン依存型糖尿病の発症率はサルジニア島における発症率と同様にラツィチオ地区一般に比し4倍の高率であった。また、片親がサルジニア人の場合はラツィチオ地区一般の2倍の発症率であったという。これらの結果から、著者らはインスリン依存型糖尿病の発症には遺伝因子および環境因子の両者が関与するものの、遺伝的素因がきわめて重要な役割を担うものと結論づけている。
 この研究では、サルジニア島からの移住者は皆、インスリン依存型糖尿病を発症した子供が誕生する少なくとも数年前にイタリア本土に移住しているので、これらの子供へのサルジニアの環境因子の関与は無いものと考えられている。しかしながら、小児においてはその食生活などの生活様式は強く両親に依存していると考えられ、誕生後これらの子供たちに両親を介してサルジニアの生活環境が間接的に影響した可能性は否定しきれないのではないだろうか?

 また、同じ Lancet 誌に掲載されたこの論文に対するコメント(www.thelancet.com)で Hattersley は、1卵性双生児におけるインスリン依存型糖尿病の発症率が30−50%にすぎないこと、また、近年インスリン依存型糖尿病を幼少時期に発症する症例が増加してきていることなど、環境因子も重要性を有することを示唆する例を挙げている。また、Hattersley はインスリン依存型糖尿病の発症に遺伝因子と環境因子のいずれがより重要かを研究することにそれほどの意義を認めず、むしろ研究の進歩により、インスリン依存型糖尿病発症の遺伝的素因をもった対象者を発症前に同定することが可能となり、これらの対象者において発症の引き金になる環境因子を排除し、発症を未然に防止できるようになることこそが研究の最終目的であるべきと主張している。同感である。

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