高血圧治療ガイドライン2000  2000年9月

 このたび、日本高血圧学会が中心となり高血圧治療のガイドラインが作成され、7月に発表されました。基本的には99年のWHOのガイドラインに従ったものですが、なるべく日本人の実態に即したものになるように、高齢者の高血圧治療に重点のひとつをおいています。このガイドラインはわが国をはじめとする世界中の研究成果に基づいて作成されたもので、数多くの実際の症例で確かめられた証拠に基づくものです。A4版で125ページにわたる膨大なものですが、一部をご紹介します。

血圧値の分類

医療機関で測定した血圧の分類は表1のとおりです。

表1 血圧値の分類
 
 

分類 最大(収縮期)血圧 最小(拡張期)血圧
至適血圧 120未満 かつ 80未満
正常血圧 130未満 かつ 85未満
正常高値血圧 130〜139 または 85〜89
軽症高血圧 140〜159 または 90〜99
中等症高血圧 160〜179 または 100〜109
重症高血圧 180以上 または 110以上
収縮期高血圧 140以上 かつ 90未満
  
 なお、家庭で測定した場合には135/80mmHg(いずれか片方でも)以上の場合を高血圧とします。

リスク(危険度)の程度による分類
 高血圧は脳卒中や心臓病の原因となりますが、このような病気は高血圧以外に、加齢(男性60歳以上、女性65歳以上)、糖尿病、喫煙、高コレステロール血症なども原因になります。したがって、これらの条件がひとつでも当てはまる人は脳卒中や心臓病のリスク(危険度)が高いと考えられます。特に、糖尿病の患者さんでは脳卒中や心臓病になりやすく、すでにこれらの臓器に異常が起こっている人と同じようにリスク(危険度)が大変高いと考えられます。

高血圧治療の目的
 高血圧を治療する目的は、高血圧による体の障害(合併症)を予防することで り、特に高血圧による死亡(脳卒中や心筋梗塞などによる死亡)を防ぐことです。海外で行われた研究をまとめると、約50,000人の対象者を二つに分け、片方のグループに血圧を下げる薬を飲んでいただき、残りのグループには薬を投与しなかった場合、薬で血圧が6〜7mmHg低下すると4〜5年間の脳卒中による死亡を40%減少させることができ、心筋梗塞による死亡を16%減少させることができたとのことです。また、癌や自殺を含めて らゆる原因の死亡を合計しても、薬を服用していたグループでは死亡者数が13%減少したとのことです。このように、薬で少し血圧を下げることにより、死にいたる合併症を防ぐことができることが証明されています。

初診時の治療計画
 上記の血圧値やリスクの程度により、直ちに血圧を下げる飲み薬を服用していただく場合も れば、3〜6ヶ月待って、140/90以下に下がらない場合初めて服薬を開始する場合も ります。いずれにしても140/90以上の方は薬を飲む必要が るとされています。(60歳以下の方、および糖尿病患者さん)

血圧の目標値
 60歳以下の方や糖尿病を有している方は130/85未満にする必要が ります。60歳以上の方では、年齢に応じ、最大血圧は140〜160以下にしますが、最小血圧はどの年齢の高齢者でも90未満にする必要が ります。

生活習慣の修正
 食塩制限、適正体重の維持、アルコールの制限、運動療法、禁煙などが挙げられています。

食塩制限
 最近、加工食品の摂取量が増加した結果、昭和62年には11.7グラムまで低下していた日本人の平均1日食塩摂取量が再び13グラム程度にまで増加しています。高血圧の方は1日の摂取量を7グラム以下にする必要が ります。塩分摂取を6グラムにまで減らすと、最大血圧が6、最小血圧が4mmHg低下することが証明されています。なお、味覚の形成過程に る子供さんやお孫さんに薄味を覚えさせるとよいでしょう。

適正体重の維持
 近年日本人の体重は増加の一途をたどっており、特に中年以降の男性では過去40年の間にBMIがおよそ1.7(体重にして5kg)増加しました。体重を4〜5kg落とすと血圧が明らかに降下することが証明されています。

アルコール制限
 アルコールは血圧を上げ、脳卒中を増やします。男性では日本酒換算で1合まで女性ではこの2/3程度までにおさえてください。

その他の食品
 脂肪やコレステロールのとりすぎにならないように注意してください。また、カリウムは降圧効果が り、欠乏しないようにしてください。97年に発表されたアメリカの研究では、飽和脂肪酸やコレステロールを控え、果物や野菜を多く採ると、11〜12/5〜6mmHg血圧が下がるとのことです。

運動
 毎日30〜45分の早歩きをすると、10週間後には平均して収縮期が11、拡張期が6mmHg下がることが示されています。なお、運動療法をはじめる前にはメディカルチェックを受けてください。

その他
 寒冷は血圧を上げるので、トイレや浴室なども暖房してください。冷水浴やサウナは避けてください。

高齢者の高血圧
 わが国の統計では、65歳以上の高齢者ではその約60%が高血圧で るといわれています。加齢とともに大動脈が硬くなり、収縮期血圧(最大血圧)が上昇します。また、高齢者では気づかないうちに軽度の脳梗塞を起こしていることも少なくなく、このような場合、 まり血圧を下げすぎると脳血流が低下しやすくなると考えられています。したがって、高齢者では血圧の治療目標値を別個に設定しました。それによると、60歳代の方では140/90以下、70歳代の方では150〜160以下/90以下、80歳代の方では160〜170/90以下が目標とされています。

糖尿病を合併する高血圧
 糖尿病の患者さんでは、糖尿病でない人に比べて高血圧の頻度は2倍と高くなっていて、特に2型糖尿病と高血圧は密接な関連が ると考えられています。糖尿病による腎臓障害、網膜症や動脈硬化は血圧が高いとどんどん進行してしまいます。このため、糖尿病患者では特に血圧を厳重に下げる必要が ります。血圧の目標は130/85未満ですが、腎臓障害が り尿に蛋白がでる症例では125/75未満にしたほうがよいとされています。血圧が130/85以上の場合には生活習慣の改善で様子を見、3〜6ヵ月後に目標に到達しなければ、降圧薬をはじめます。また、140/90以上の場合には生活習慣の改善と同時に初めから降圧薬を開始します。

降圧薬
 生活習慣の改善だけで目標の血圧まで低下しない場合には、1ページにも書いたように、降圧薬を服用することで命にかかわる合併症を減らすことができます。通常の場合、血圧は徐々に低下させ1〜6ヶ月程度かけて目標値にまで下げるようにします。
ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬や長時間作用型のCa(カルシウム)拮抗薬、AU(アンジオテンシンU)拮抗薬、利尿薬、β遮断薬と呼ばれる自律神経調整薬などがまず初めに処方されます。このうち、ACE阻害薬は心肥大防止作用、心不全防止作用、腎障害防止作用、血糖改善作用などを持ち好ましい薬ですが、副作用として20〜30%の方で咳がでます。AU拮抗薬もACE阻害薬と同様の作用が ると考えられていますが、咳の副作用は りません。長時間作用型(1日1〜2回服用)のCa拮抗薬は確実な降圧作用を有し、心臓の冠状動脈を広げる作用も るため狭心症の患者さんなどによく使用されます。利尿薬はむくみが る場合や高齢者に使用します。尿酸や血糖、中性脂肪、コレステロールの上昇などの副作用が出ないように少量だけ使用されます。β遮断薬は自律神経(交感神経)の働きすぎを抑える薬で、狭心症の患者さんや心拍数が多すぎる患者さんなどに使用されます。
 これらの薬で目標の血圧値に達しない場合には、薬を増量したり、他の種類の薬を併用したりします。

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