ビタミンEは無効?、ACE阻害薬は有効! (2000年2月)

 ビタミンEなどを豊富に含む食品を多く摂取すると、心筋梗塞や脳梗塞などの発症が減少することはよく知られています。ただ、これらの現象がビタミンE自体によるものか、ビタミンEとその他の栄養素やライフスタイルとの相互作用の結果であるのかはわかりません。そこで、ビタミンE自体を薬として投与した場合に、疾病の発生率がどのように変化するかを調べる必要があります。今回、このような研究がNew England Journal of Medicine 1月20日号に掲載されましたので、ご紹介します。



 この研究は北南米およびヨーロッパの計281施設の共同研究です。対象者は心血管疾患の既往または糖尿病を有する者で、さらに高血圧、高脂血症、喫煙、腎障害のいずれかを合併している55歳以上のハイリスク患者(男性6996人、女性2545人)です。対象者をランダムにビタミンE(400IU/日)を含有する実薬と、これを含有しない偽薬(プラセボ)を服用する群に分け、4〜6年(平均4.5年)間観察しました。主要転帰は心筋梗塞または脳卒中の発症および心血管疾患による死亡とされました。また、副次的転帰は、あらゆる原因による死亡、不安定狭心症、うっ血性心不全、糖尿病性合併症の増悪などとされました。全体では、ビタミンEに割り付けられた4761例のうち772例(16.2%)と、プラセボに割り付けられた4780例のうち739例(15.5%)に、主要転帰のイベントが発生しました。この内訳は、心血管疾患による死亡(ビタミンEで342例対プラセボで328例)、心筋梗塞の発生(532例対524例)、脳卒中の発生(209例対180例)といずれにおいても有意な差を示しませんでした。また、副次的心血管イベントやあらゆる死因による死亡に関しても有意差は認められませんでした。

 ビタミンEは抗酸化物質であり、LDLの酸化を防ぎ、動脈硬化予防作用があるのではないかと期待されていますが、この研究ではそのような効果は認められませんでした。ビタミンEの効果発現にはより長期の時間が必要である可能性も考えられ、また、抗酸化作用による発がん予防作用も考えられるため、この研究はこれらの点に関しさらに検討を続けているとのことです。なお、今までにもビタミンEを薬として投与した研究はいくつかあり、有効、無効と研究結果は一定していません。今回の研究成果を合わせて考えると、少なくとも、ビタミンE自体が極めて有効であるとは考えにくいと思われます。

 また、同一の対象者において、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)ramiprilの効果を検討した結果、ramiprilが主要転帰、副次的転帰のいずれに対しても約20%の発生防止効果を示したことも報告されています。この薬は高血圧症の治療薬ですが、今回の研究の対象者には高血圧でない人も多く含まれており、また、実際に血圧は平均2mmHgしか低下しなかったこともあり、今回認められたramiprilの効果は降圧の結果もたらされたものではないと考えられるとのことです。また、同じ研究で対象者を糖尿病患者に限定した解析も行われていますが、やはりramiprilは主要および副次的転帰に対して約25%の防止効果を示したとのことです。なお、類似の薬物はわが国でも使用されています。この研究に日本人の対象者は含まれていませんが、大いに参考にすべきデータであると考えられます。

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