スタチン系コレステロール低下薬で痴呆予防!? (2000年12月)

 Alzheimer病や脳血管性痴呆は高齢者の10%程度に痴呆症状をもたらす重大な疾患ですが、一部の遺伝性Alzheimer病などを除いて、その原因は明らかではありません。脳血管性痴呆はもとより、Alzheimer病においても血管異常が痴呆症状の出現に関与しているとする報告が相次いでいます。そこで、英国と米国の研究者たちは血液中のコレステロール値やその治療が痴呆症状の出現にどのように関係しているかを統計的に調査した結果、スタチン系のコレステロール低下薬を服用している対象者は痴呆になりにくいことを見いだしました。(The Lancet, November 11, 2000)


 英国の一般開業医に通院中の対象者の中から、24480人のコレステロール低下薬服用者、11421人の無治療高脂血症患者、および、高脂血症もなくコレステロール低下薬も服用していない対象者25000人が選ばれ、1992年から1998年まで調査が行われました。その結果、高脂血症の有無によって痴呆症の発症率に差がないことが分かりました。ただ、スタチン系のコレステロール低下薬を服用している対象者はこの薬を服用していない対象者に比し、痴呆症の発症が約70%低下している(痴呆症の発症が約3割に減っている)ことが分かりました。また、スタチン系以外の高脂血症治療薬は、服用していてもいなくても痴呆の発症に関係しないことも分かりました。なお、5種類あるスタチン系薬物の間には痴呆の発症率に明らかな差がないとのことです。


 この研究は、性別、年齢、BMI、喫煙、冠状動脈疾患、糖尿病、一過性脳虚血発作、高血圧、冠状動脈バイパス手術、女性ホルモン補充療法の有無については調査を行っており、スタチン系薬物服用者に認められた痴呆発症の低下がこれらによるものではないことは確認が取れています。ただ、今回の研究からは、スタチン系の薬物が実際に痴呆予防効果を有するのか、あるいは、この研究で調査されたスタチン系薬物服用者自体がもともと他の対象者と、たとえば教育水準や家庭環境などで、異なっていたのかは明らかではありません。この点を明らかにするためには、高脂血症症例を無作為に二分し、一方にスタチン系薬物を投与し実際の薬物作用を検討する必要があります。本当にスタチン系薬物によって痴呆発症を70%防ぐことができればきわめて大きなメリットとなりますので、このような研究結果の発表が待たれます。

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