内臓脂肪と糖尿病 (2000年4月)

 肥満が糖尿病発症の原因の一つであることはよく知られています。ただ、実際に脂肪沈着の部位が糖尿病発症とどのように関連しているかについては厳密にはよくわかっていませんでした。このたび、米国のワシントン州立大学(シアトル)から、同地の日系2世、および3世を追加調査し、どのような因子が糖尿病発症と関連しているかを調査した結果が、米国糖尿病学会の機関誌の一つDiabetes Careに発表されましたのでご紹介します。



 日系2世290人および3世230人をそれぞれ10年および6年間追跡調査した結果です。調査開始時点でブドウ糖負荷試験、腹部CT検査(内臓脂肪量の測定のため)などを行い、その後の追跡調査期間中にブドウ糖負荷試験を繰り返し、糖尿病を発症したかどうかを調査した結果です。追跡期間中に2世からは65人、3世からは13人が2型糖尿病を発症しました。調査の結果、調査開始時点の内臓脂肪量、血液中のC-ペプチド(インスリン)およびブドウ糖負荷試験時のインスリンの増加反応の程度により、その後、糖尿病を発症するかどうかがある程度予測できることが判明しました。内臓脂肪量は、肥満の程度(体重)や皮下脂肪量とは関係なく、糖尿病発症を予測する因子であり、内臓脂肪量が多いほど糖尿病になりやすいとのことです。また、調査開始時点の空腹時のC−ペプチド(インスリン)は多いほど糖尿病になりやすいことがわかりました。このことはインスリンが効き難い状態が糖尿病の発症に先行することを示していると考えられます。また、ブドウ糖を飲んだ後、インスリンが十分に増加しない人はその後糖尿病になりやすいこともわかり、食後のインスリン増加反応が悪いことも糖尿病発症の危険因子であることがわかりました。

 この研究対象となった日系人は純粋の日系人ばかりで、その他の人種とのいわゆる混血者は含まれていません。従って、遺伝的には、この研究の日系人を日本人と置き換えても同じ意味になると考えられます。内臓脂肪の蓄積、インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)、および、不十分なインスリン増加反応が糖尿病発症に先行して認められるとの結論ですが、この三者がどのような関係にあるか、さらには、食事運動療法などで、たとえば、内臓脂肪を減少させることができた場合、どの程度糖尿病発症を予防することができるかなど、今後の研究テーマには事欠きません。研究の進歩を願うばかりです。

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