コレステロールに朗報:わが国で実証された薬物効果 2006年2月

 

  高コレステロール血症は心筋梗塞や脳梗塞の主要原因です。薬物を利用してLDL(悪玉)コレステロールを低下させることでこれらの疾患を予防できることは、欧米では10年以上前に確実に証明されていました。最近、わが国でも、大規模な臨床試験が行われ、やはり同じ薬物効果が確認されました(2005年11月米国心臓病学会)。わが国のマスコミではほとんど報道されませんでしたが、日本の高脂血症患者さんやその診療に当たる医療従事者にとって、初めての無作為化大規模臨床試験であり、きわめて重要な研究結果であると思います。また、この学会では、わが国からもうひとつ重要な研究結果が報告されました。

 

スタチンの効果

米国心臓病学会は、世界中の心臓病研究者が集う、世界でもっとも権威のある心臓病学会です。この学会の2005年総会で発表されたMEGA Studyと名づけられた今回の研究は、明らかな冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)の既往・所見を認めず、総コレステロールが220270mg/dLの男性(4070歳)と女性(閉経後〜70歳)を対象とする心血管系疾患の予防試験です。7832例が「食事療法単独」(食事療法単独群:3966例)と「食事療法+プラバスタチン(商品名メバロチン)1020mg/日併用群」(プラバスタチン群:3866例)に無作為に2分され、平均5.3年間追跡されました。

対象患者の平均年齢は58歳で、そのうち68%が女性でした。42%に高血圧、21%に糖尿病が認められました。治療前の検査で特徴的だったのは、総コレステロール平均値が243mg/dLLDL(悪玉)コレステロール(LDL-C)平均値が157mg/dLと比較的軽症であったことです。また、平均値ではHDL(善玉)コレステロール(HDL-C58mg/dL、またトリグリセライド(中性脂肪)127mg/dLといずれも正常でした。

追跡期間中の血清脂質は、プラバスタチン群で試験開始時に比べ、総コレステロールは11.5%、LDL-C18.0%、中性脂肪は3.1%減少し、HDL-C5.8%増加しました。LDL-Cの減少率は、英国で同様にプラバスタチンによる1次予防作用を検討した大規模試験(26%)の半分以下でしかありませんでした。それにもかかわらず、MEGA Studyでの評価項目「冠動脈疾患」(致死性・非致死性心筋梗塞、狭心症、心臓突然死、血行再建術)は、プラバスタチン群において食事療法群に比べ相対的に33%も減少していた。また、性別、年齢などで分けたサブグループごとで比較しても、プラバスタチン群で冠動脈疾患が増加傾向を示す集団はありませんでした。

さらに、「致死性・非致死性心筋梗塞」のみで比較すると、プラバスタチン群では48%の減少が認められました。同様に「冠動脈疾患+脳梗塞」を比較すると、プラバスタチン群で30%減少していました。一方、癌、横紋筋融解症といった重篤な有害事象、また臨床検査値異常についてはプラバスタチン群と食事両方単独群で同等であり、これまでの数々の研究結果と同様に、プラバスタチンの長期安全性が確認されました。

従来の欧米の臨床研究では、わが国の通常処方量の2〜4倍量の薬物が使用されることが多かったのですが、今回の研究で、欧米の標準治療よりも少量であるわが国の通常の投与量で十分に有用であることが科学的に初めて実証されました。結論として、わが国では総コレステロール220mg/dL以上の中高齢者ではプラバスタチン(メバロチンなど)を服用することで、重篤な副作用なしに、心筋梗塞・狭心症・脳梗塞の発生を減らすことができるといえます。

 

EPA(青魚の油成分)の効果

今回の米国心臓病学会で、もうひとつ日本から画期的な臨床試験結果が発表されました(JELIS研究)。EPAは青魚の脂肪成分のひとつとして知られ、世界中の国々で魚を食べる人に心筋梗塞や狭心症が少ないのはEPAの摂取量が多いからではないかと考えられています。今回、高純度EPA(商品名エパデールなど)を薬として投与した際に、実際に虚血性心疾患が減少するかどうかが研究されました。観察対象は、男性が4075歳、女性が閉経後〜75歳、総コレステロール値が250mg/dL以上の高脂血症患者です。約5年間の追跡期間に心臓突然死、致死性および非致死性心筋梗塞、心臓発作による入院を含む不安定狭心症、心血管再建術(ステント、冠動脈バイパス術、バルーン拡張術)の複合発生率、心血管死亡率および総死亡率を比較しました。

この研究では総計18,645例の患者さんを無作為にEPA+スタチン系薬剤(EPA)群9,326例と、スタチン系薬剤単独(対照)群9,319例に割り付けました。スタチン系薬剤とはMEGA studyで使用されたような種類のコレステロール低下薬で、この研究では、全例に前述のプラバスタチン1020mg/日またはシンバスタチン(商品名リポバスなど)510mg/日を投与し、EPA群にはそれに加え、1,800mg/日(食後600mg×3/日)のEPA製剤を併用投与しました。症例は女性が多く、両群とも約68%でした。治療前総コレステロールは平均約280mg/dLMEGA studyよりやや高かったのですが、1年間の治療によりいずれの群でも約220mg/dLと初期のコレステロール低下という目標を達していました。

登録症例のうち心臓病のない患者は14,981例で、安定した虚血性心疾患を合併する患者は3,664例でした。心疾患を合併する患者群には、心筋梗塞の既往が29%、安定型狭心症が79%、冠動脈再建術の施行が28%含まれていました。平均追跡期間は4.6年でした。

突然死・心筋梗塞・狭心症による入院などの主要冠動脈異常事象の発症率は、全体としてEPA群で2.8%、対照群で3.5%と、EPA群が対照群に比べて19%の相対リスク低下を示していました。特に、不安定狭心症および非致死性心筋梗塞の発生リスクはEPA群でそれぞれ24%、25%と大きく減少しました。

なお、心疾患合併の有無で分けると、心疾患を合併する患者において、EPA群では対照群に比べて主要冠動脈異常事象の発生が有意に抑制されました(発生率:8.7%対10.7%)。一方、心疾患を合併していない患者では、同様にEPA群の方が心臓障害の発症率は低かったものの、統計学的に意味のある差は認められなかったとのことです。総死亡については、両群間に大きな差は見られませんでした。

試験終了時には、LDLコレステロール値はEPA群、対照群とも26%減少し、両群の間に差は認められませんでした。

この研究結果が発表されるまで、小生を含み、比較的魚を多く摂取する日本人が薬物としてEPAを服用することにどの程度の意義があるか疑問視する医師も少なくありませんでした。しかし、今回の研究で、少なくとも虚血性心疾患を持つ患者さんでは、標準的な治療薬であるスタチンに加えてEPAを服用することが明らかな心筋梗塞予防効果を有することが証明されました。血液脂肪の改善程度には両群間に明確な違いはなかったため、19%の心臓突然死や心臓発作の発症率低下に関しては、EPAの持つ脂質改善効果とは関係のない作用が関与していると考えられます。

なお、今回ご紹介した二つの研究は全国の多数の医療機関が参加した共同研究です。また、使用された薬剤、プラバスタチン、高純度EPA、シンバスタチンにはいずれも比較的薬価の安い後発品(ジェネリック医薬品)もあります。

 

欧米に追いつくわが国の臨床研究

実は、今回の臨床研究で使用されたスタチン系コレステロール低下薬プラバスタチンはわが国で開発された世界初のスタチン系薬剤です。この薬剤の出現後、世界の高コレステロール血症治療が一変してしまい、20世紀に開発された多数の薬の中でも特筆すべき薬物です。では、日本発のこの薬が日本人にどの程度有効かを調査研究することが、欧米に比べ10年も遅れてしまったのは何故でしょうか?

副作用を含めた薬の効果を客観的に明らかにするためには、多数の対象症例を無作為に2分し、一方に薬を投与し、他方に投与せず数年間経過を観察する方法が最も確実です。従来、わが国ではこのような研究は、あまり患者さんの協力が得られず、施行が困難でした。患者さんの中には自分の意思とは無関係に、無作為に、治療法が割り付けられることに違和感を感じる方も少なくないと思います。しかし、誰もが納得する結果を出すためには、患者さんの協力を得て、かたよりをなくすために、患者さんを無作為に2分して比較研究することが必要なのです。

ここ数年、わが国でも世界中どこに出しても恥ずかしくない臨床研究が行われるようになってきました。また、そうしない限り日本の患者さんを救う確かな治療方法は確立されません。当院を含め皆さんの身近な医療機関でもこのような無作為臨床試験が行われています。機会があればこのような臨床研究に参加し、ご自分を含めたわが国の患者さんの治療方法確立のために貢献していただけませんか?

 

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