腹囲でわかる心筋梗塞予備軍 メタボリック シンドローム 2005年7月

高コレステロール血症、高血圧、糖尿病が心筋梗塞の原因となり、これらの治療により心筋梗塞の発症が減少することは、すでに、さまざまな臨床研究で証明されています。しかし、血糖、血圧、コレステロールに著しい異常がなくても心筋梗塞を発症する人は少なくなく、心筋梗塞発症の危険度が高い人を見つけるためには、新しい概念が必要と考えられていました。本年4月、日本内科学会、糖尿病学会、動脈硬化学会、高血圧学会、循環器学会などが合同で、この心筋梗塞の予備軍であるメタボリック シンドロームの診断基準を作成しました。

 

心筋梗塞

心筋梗塞は心臓に血液を送る冠状動脈が動脈硬化により狭くなり、最終的に閉塞することで、心臓の一部が死んでしまう病気です。冠状動脈の根元が閉塞すると心臓の広範囲に障害が出現し、放置すると死亡してしまいます。最近、岐阜市内でもさまざまな医療機関で心臓カテーテル治療が行われるようになり、心筋梗塞急性期の治療体制が整ってきました。この結果、幸い九死に一生を得ることができた患者さんも増えてきています。しかし、最も重要なことはこの心筋梗塞の発症を予防することです。

 

心筋梗塞の危険因子

LDL(悪玉)コレステロールや血圧を低下させることで心筋梗塞が予防できることは世界各国で証明されており、わが国でも高脂血症や高血圧に関し治療ガイドラインが策定されています。また、喫煙も心筋梗塞の危険因子として確立されています。

一方、1980年代後半から、@肥満、A比較的軽度の高血糖、B中性脂肪の高値・HDL(善玉)コレステロール低下、C血圧高値の四つが「死の四重奏」などと呼ばれ、心筋梗塞の危険因子として注目されていました。このころ大阪大学内科の松澤教授(現住友病院)らは内臓脂肪の蓄積に注目し、内臓脂肪蓄積が高血糖、血液中の脂肪の異常、血圧上昇などをもたらし、動脈硬化ひいては心筋梗塞の発症にいたるという「内臓脂肪症候群」の概念を提唱しました。その後、世界各国でほぼ共通の認識がもたれるようになり、これら4つの危険因子の集積が「メタボリック シンドローム」と呼ばれるようになってきました。直訳すると「代謝症候群」となりますが、わが国においても海外に習いそのまま「メタボリック シンドローム」と命名しています。このたび決められたわが国の診断基準は裏面の表1に示されていますが、内臓脂肪の蓄積を簡単な腹囲(ウエスト周囲径)で診断することが特徴となっています(男性85cm以上、女性90cm以上)。また、このウエスト径の増加(内臓脂肪の蓄積)が「メタボリック シンドローム」の診断に必須の要件とされています。皆さんは、ウエストを測定することで、ご自分の健康状態を簡単に推測することができるのです。今回の診断基準では、このウエスト増大に加え、中性脂肪150以上またはHDLコレステロール40未満、血圧130/85以上、空腹時血糖110以上の内2つ以上が当てはまると「メタボリック シンドローム」と診断されるようになります。

 

テキスト ボックス: 表1 メタボリック シンドローム診断基準

必須条件:ウエスト周囲径 男性85cm以上、女性90cm以上の人で
(立った状態でおへその高さで測定してください)

以下の3つのうち2つ以上が当てはまる人はメタボリック シンドロームと診断されます。
1 中性脂肪(トリグリセライド)150mg/dl以上
または HDLコレステロール40mg/dl未満のいずれか
2 血圧収縮期130mmHg以上
  または 拡張期85mmHg以上のいずれか
3 空腹時血糖110mg/dl以上

なお、1、2、3とも薬で数値が下がっている場合にはそれぞれに該当するものとして扱われます。
「メタボリック シンドローム」の危険性

世界各国の研究で「メタボリック  シンドローム」が当てはまる人はそうでない人に比べ心筋梗塞による死亡率が1.5〜2倍程度高くなることが示されています。わが国の厚労省による企業従事者12万人を対象とした調査では、「メタボリック シンドローム」の4つの状態がすべて当てはまる人は全く当てはまらない人に比べ40倍程度狭心症や心筋梗塞になりやすくなることが示されています。また、北海道端野町・壮瞥町の住民を対象とした8年間の追跡調査では、40歳以上の男性住民の21%が「メタボリック シンドローム」と診断され、これらの人々は心筋梗塞の発症率が1.8倍高かったとのことです。

また、この「メタボリック シンドローム」は2型糖尿病発症のリスクも高く注意が必要です。糖尿病を発症すると心筋梗塞だけでなく脳梗塞、失明、尿毒症、いろいろな神経障害などを発症する危険性が出現してしまいます。

 

「メタボリック シンドローム」の治療・予防

「メタボリック シンドローム」には内臓脂肪の蓄積が重要な役割を果たしており、食事療法や運動療法でウエストを引っ込ませることがその治療・予防に関し最も重要と考えられています。今回この「メタボリック シンドローム」診断基準検討委員会が日本内科学会の機関紙4月号に投稿した論文には「体重を理想体重にまで減少させることは困難であるが、ウエスト周囲径をわずかでも減少させることにより、リスクが一つでも減少するということを数値によって実感し、医療を行う側と受ける側がともに認識することが望まれる。」との一文が記載されています。医学論文にしてはやや珍しい?、患者さんや第一線の臨床医の視線に立った文章ですね。また、血圧に関しては当然塩分制限やカリウムに富む野菜の摂取が勧められますし、過度のアルコールは中性脂肪を増加させますので要注意であることは当然です。さらに血糖、脂肪、血圧の異常に関しては生活習慣の改善によっても正常化しない際には、場合により薬物療法が必要であり、その内容は各疾患のガイドラインに定められています。

 

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