ピロリ菌除菌による胃癌予防 (2004年1月)

 

胃の中に住みつくヘリコバクター・ピロリという名前の細菌(通称ピロリ菌)と胃癌の発生には深い関係があることが知られています。1994年国際癌研究機構はこのピロリ菌が胃癌の原因となるものであると宣言しました。実際、わが国の研究でも、1526人の7.8年間の追跡調査中、胃癌の発生(36人)はピロリ菌陽性者1246人にのみ認められ、ピロリ菌が陰性であった280人では一人も胃癌が発生しなかったというデータがあります。では、ピロリ菌陽性者に対してこのピロリ菌を殺す治療(除菌療法)をすると胃癌の発症を防ぐことができるのでしょうか?今回、この疑問に答えるべく中国で行われた研究結果が報告されました。

The Journal of the American Medical Association 2004114日号

 

1994年中国福建省の住民2423人に胃カメラを行い、ピロリ菌の感染が確認され、かつ、胃十二指腸潰瘍や胃癌、胃ポリープ、胃びらんなどのない対象者1630人を選び出し、この1630人を無作為に二分し、一つのグループは除菌療法を行い、残りのグループには除菌療法を行わず2002年まで経過を観察しました。除菌しなかったグループでは813人中11人に、除菌したグループでは817人中7人に胃癌が発生したとのことです。残念ながらこの差には統計学的な意味がないとのことです。ただ、1994年当初の胃カメラ検査で、表層性胃炎のみ存在し、前癌状態であると考えられる萎縮性胃炎や腸上皮化成になっていなかった対象者では除菌療法をおこなった485人では一人も胃癌が発生しませんでしたが、除菌しなかった503人では6人が胃癌になりました。この差は統計学的に有意であったとのことです。また、喫煙者では非喫煙者に比し胃癌の発生が6.2倍であったとのことです。

 

ピロリ菌による胃癌の発生は表層性胃炎→萎縮性胃炎→腸上皮化成→胃癌という道筋をたどるものと考えられています。もちろんピロリ菌陽性者の全員が胃癌になるわけではなく、ごく一部が胃癌を発症するに過ぎません。今回の研究は、少なくとも表層性胃炎の段階であれば、ピロリ菌の除菌により胃癌の発生が予防できることを示したものです。さらに進行した萎縮性胃炎などを含めた対象者全体では、統計学的な有意差は認められなかったとのことですが、除菌療法を施行したグループでは胃癌の発生数が少なく、症例数や調査期間が足りなかったために統計学的な有意差が得られなかった可能性も考えられます。現在、わが国でも同様の臨床研究が進行中ですので、数年後には明らかな結果が得られるものと考えられます。

 

このような臨床研究はある治療法が本当に有効かどうかを確認するためには必要不可欠なものです。皆さんのお近くの医療機関でもさまざまな臨床研究がおこなわれていると思います。研究の主体者、目的などの情報をしっかりと確認していただいたうえで、もし可能であれば参加してください。今後の医療に大きく貢献していただくことになろうかと思います。

 

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