高齢者でもスタチンは有効、抗酸化ビタミンは無効 2002年12月

 

中年の対象者において、スタチン系のコレステロール低下薬が心筋梗塞や脳卒中(多くは脳梗塞)の予防に有効であり、かつ、安全であるという事実は、わが国を含む数多くの国々において証明されています。しかしながら、今まで、70歳以上の高齢者におけるスタチンの効果を検討した大規模な研究はほとんどなく、高齢者に対するスタチンの投与に関し、慎重な意見もありました。本年、@英国(The Lancet 2002年7月6日号)、および、A英国を中心とするヨーロッパの研究グループ(The Lancet 2002年11月23日号)から相次いで、70歳以上の高齢者においても、スタチン系コレステロール低下薬が心筋梗塞や脳卒中の予防に有効であり、かつ、安全であるという論文が報告されました。また、心筋梗塞や脳卒中以外による死亡(癌、肺炎、事故など全てを含む)に関しては、スタチンの投与によっても有意な変化は認められなかったとのことです。

一方、同じ英国のグループは抗酸化ビタミンが心筋梗塞や脳卒中の予防に関し無効であるという論文 も発表しました。



  英国の研究@は40〜80歳の20536人を対象に、スタチン系のコレステロール低下薬シンバスタチンを1日あたり40mg含む実薬を服用するグループと、プラセボ(偽薬ともいう。実薬と同じ外見であるが、薬物成分(この場合シンバスタチン)を全く含まない錠剤)を服用するグループの2群に無差別に分け、5年間追跡調査したものです。総死亡率はシンバスタチンの服用により約12%しましたが、これは心筋梗塞や脳卒中による死亡が16%低下したことによるところが大きく、これらの血管死以外の死亡に関しては有意な影響を認めなかったとのことです。死因になる、ならないを問わず、スタチンの服用1年後から、心筋梗塞や脳卒中の予防効果が認められたとのことです。特に、これらの初回発作に対する予防効果は著しく、心筋梗塞および脳卒中の初回発作をそれぞれ約25%減少させることができたとのことです。興味深いことに、これらのスタチンの効果は心筋梗塞などの動脈硬化症の既往や、糖尿病の有無、性別、年齢にかかわらず、さらに血液中のコレステロール値(LDLコレステロール116以下、総コレステロール193以下でも効果あり)にもかかわらず、全ての対象者において認められたとのことです。発癌やあらゆる原因による入院の頻度に関して、スタチンは無影響であったとのことです。

同じ英国のグループは同じ対象者で、ビタミンE、ビタミンCおよびβカロチンの効果を研究しましたが、これらのビタミンサプリメントを十分な量摂取しても、あらゆる死亡率、心筋梗塞や脳卒中、癌の発生率に無影響であったとのことです。

別の、英国やその他のヨーロッパ諸国による研究Aでは、70歳から82歳の高齢者ばかり5804人を対象とし、スタチン系薬物プラバスタチン(1日40mg)とプラセボの効果を調査しました。平均8.2年の追跡では、プラバスタチンは心筋梗塞を19%減少させましたが、脳卒中には無影響であったとのことです。



これらの論文により、西洋では70歳以上の高齢者でもスタチン服用のメリットが大きいとして、高齢者に対するスタチン系薬物の処方が一般化されることと考えられます。また、今回の研究を含め、スタチン系の薬物は投与前のコレステロール値にかかわらず、心筋梗塞予防効果があると考えられるようになっています。

今回の研究での臨床薬理学的な結論は明白なものであり、議論の余地はほとんどないと考えられます。ただ、これらの研究で使用された薬物の投与量はわが国で通常処方される量の4倍程度となっています。わが国の高齢者においても、ほとんど副作用のないこれらのスタチン系薬物の服用が、メリットを有する可能性は十分に推測できます。しかし、高齢者を対象とした大規模な臨床研究が行われていないわが国では、現在の通常の処方量でのメリットがどの程度であるかは分からないのが現状です。現在のわが国での投与量でも十分なメリットが得られるのでしょうか?わが国でも、さらに投与量を増加させるべきなのでしょうか?あるいは、投与量を増加させても、それほどのメリットはないのでしょうか?

今回の海外での研究は、対象者の半数がプラセボ(偽薬)を長期間服用しています。その結果、誰が判断しても明らかな結論が得られたのです。わが国では、実薬とプラセボ(偽薬)の効果を直接比較する研究は、対象者の同意が得られにくく、あまり行われていません。しかしながら、2種の薬物の効果を比較検討する大規模な研究は数多く行われています。皆さんの近くの医療機関もこのような大規模研究に参加しているかもしれません。主治医から研究への参加依頼を受けた場合には、より有効な治療法を探す研究に貢献できる機会とお考えいただき、ご考慮ください。なお、研究への参加をお断りになっても、実際の治療に際しては何の不都合もありません。


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