タバコの害 2題

1 受動的喫煙による血流低下

 受動的喫煙(間接喫煙)は心臓病の重要な危険因子です。たとえば、米国心臓病学会では、家庭内に喫煙者がいると、その家族が心臓病で死亡する危険性が30%上昇することを指摘しています。また、米国ではこの受動的喫煙による心臓病や肺疾患のために年間53000人が死亡しています。今回、大阪市立大学医学部循環器内科の先生方が、受動的喫煙により、心臓に血液を供給する冠状動脈の血流が低下することを実験的に証明し、米国医師会雑誌に論文を投稿されました。(2001年7月25日号)

 日本人の男性30人で実験した結果です。15人はいつも喫煙している人で、残りの15人はノンスモーカーです。タバコによる汚染の指標のひとつとして血液中の一酸化炭素量を測定したところ、喫煙者では非喫煙者に比べ10倍高い値を示しました。また、冠状動脈の血流は喫煙者では非喫煙者の80%の値を示し、喫煙者での血流低下が認められました。この後、二つのグループとも大学病院の喫煙ルーム(8畳)(空気中の一酸化炭素は一般の部屋の15倍に上昇している)で30分をすごしてから再び血流を測定したところ、非喫煙者の血流も77%にまで低下したとのことです。また、このとき非喫煙者の血液中の一酸化炭素は喫煙ルーム入室前の6.5倍に上昇していたとのことです。

 病院や映画館などの喫煙ルームはかなり煙がもうもうとしているところが多いようです。そこに30分いると、自分が喫煙しなくても体内の一酸化炭素が増え、自分で喫煙したのと同じ程度にまで血流が低下することを示した結果です。


2 タバコの害が出やすい遺伝子

 狭心症や心筋梗塞は遺伝的および環境的原因の積み重なりによって発症します。環境的原因としてはまず喫煙があげられます。喫煙は動脈硬化を促進させ、また、血流を低下させるなどして狭心症や心筋梗塞の原因となります。遺伝的原因のひとつとしてはAPOEと呼ばれる遺伝子があります。このAPOE遺伝子にはε2、ε3、ε4という3種類の型があり、ε4型遺伝子を持った人は心臓病やアルツハイマー病になりやすいことが知られています。今回、このAPOE遺伝子型と喫煙の組み合わせが心臓病の発症とどのように関連しているかを調査した結果が報告されました。(The Lancet 2001年7月14日号)

 イギリスの中年男性3052人を追跡調査した結果です。対象者全員をまとめると、一度も喫煙したことのない人が心臓病を発症する確率を1とすると、以前喫煙していて現在は禁煙している人のそれは1.34、現在喫煙している人のそれは1.94でした。一度も喫煙していない対象者ではAPOE遺伝子型が違っても心臓病発症の頻度には差が認められませんでした。また、ε2型やε3型の人では、以前に喫煙していた人と現在喫煙している人で心臓病の発症率には少しの差しか認められませんでしたが、ε4型の人は現在の喫煙によって発症率が約3倍に増加したとのことです。

このように、どの遺伝子型でも喫煙は心臓病を増やしますが、特にε4型の人でタバコの害が強く出ることがわかりました。


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